「白恋」執筆秘話その3(佐倉さくら)

2010年11月17日 | 開発室より

「白恋」を書いている時、自分が新人の頃のこともよく思い出しましたが
それ以上に思い出があふれてきたのが、学生時代の頃のことでした。

日中は実習、帰宅すればレポートや看護計画と毎日やることが
山積みで寝不足になることも多々。
厳しい指導ナースに当たった子は、何度計画を立て直してもなかなか
OKがもらえずに毎晩泣きながら書いていたりしてました。

私はとっても優秀だったので特に実習では何の問題もなくて…
なんてことはなく、初めての実習でぶつかったのは
「コミュニケーション」という壁でした。

「患者さんとコミュニケーションを取る」というのは、看護学でも
まず最初にやる項目のひとつで基本中の基本。
患者さんとの信頼関係を作るのに必要なものです。

それは学校でもしっかりいわれていたので
「頑張ってコミュニケーションを取るぞー!」と
はりきって実習に望んだのですが、初日から
私の意気込みは打ち砕かれてしまい途方にくれました。

担当したのは乳がんの女性患者さんで、全摘といって
片方の乳房を全部取ってしまわれた方でした。

初日の朝「担当させていただきます、実習生の…」と
挨拶に伺った瞬間から「気分が悪いからどこか行って!」といわれ、
その後も何度か訪室(お部屋を訪ねること)をしてもそのたびに
「今は話す気分じゃない」といわれたり、何を話しても無視されたり。

まったくお話もできないのでレポートも書けず指導ナースに相談しても
「そこをいろいろと考えるのが勉強でしょう」と突き放されてしまい、
次第にその方の病室に伺うのが嫌になってしまい、
日中、どうしても必要のある時以外はトイレやリネン室に隠れて過ごしたりしました。

3日ほど経ったとき、清拭といわれる身体を拭くケアに伺ったとき、
ギクシャクしながら「身体を拭きますねー」と手をかけた瞬間に
激しくその手を払われ、タオルを投げつけられました。

私はショックで呆然としてしまい、さすがに担当のナースも驚いた様子で
患者さんをなだめつつ私に病室を出て行くように指示しました。

その日、私はフリーのナースについて他の患者さんの清拭や点滴交換にまわり、
そして翌日、婦長(今なら師長)に担当替えを申し渡されました。

理由は「若くて健康な人に看護されたくない、
身体を見られたくない」
とのこと。

最初婦長は「あの患者さんはこう言っているけど、どうする?
代わりたいなら担当の患者さんを代えてもいいし、頑張りたいなら
もう少しアプローチの方法を考えてチャレンジしてみてもいいわよ」
といってくれたのですが、私はそのとき、自分が受け入れてもらえないことの
ショックが大きくて「替えてほしいと言われたのでしたら、代わります」と
言ってしまいました。

そのときの決断を、私は今でも後悔しています。

そのときはもう、患者さんに嫌われているという悲しさと話もできない
つらさで毎日がいっぱいいっぱいだったので、それから開放されるという
選択肢に飛びついてしまったのですが何ができたかわからないし、
最終的にはやはり担当を替わるしかなかったのかもしれない。

けれど、何ができるか考えもしないうちに、自分が実習ができないからと
決断してしまったのはよくなかったな。もっと考えられることはあったのではないかな、
と今でも思っています。


「白恋」主人公のかおりちゃんも、患者さんとのコミュニケーションで
悩むシーンがあります。
それを書いているとき、ふとあの時の私を思い出すのです。

かおりちゃんには、私があの時考えられなかったことを考え、
挑戦してほしい。
私にはない強さを持つ彼女だから、きっと悩み迷いながらも
いろいろ考えてくれるはず。

そう思いながらキーボードを叩いていました。


あっ!ちょっと重たい話になってしまってすみません(汗っ

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